朝会の話 93 歌うことは人に感動を与えること

 おはようございます。
 音楽会もあと2週間になりました。みなさんは「音楽会、みんなの心をひびかせよう」というめあてに向かって練習に励んでいますね。
 私の小学校の時の音楽の成績は、「良下」の成績でした。今で言うならば、「もう少し」の成績です。どうも音楽が苦手な教科だったのです。戦争中だったので音楽の授業や音楽会のようなあまり記憶にはありません。
 ところが、中学校に入って歌うことが大変好きになりました。それは、一人の先生のおかげなのです。その先生の名前は山内守という先生です。戦争が終わった後なので、音楽の楽器はほとんどありませんでした。ところが、そのような中で、山内先生は私たちにレコードでいろいろな演奏を聴かせてくださいました。そして、ひとつの曲が終わると、「きれいな曲だね。美しい川の流れが見えてくるようだね。」とか「楽しい曲だね。みんなで楽しく踊っているようだね。」とか話されて「音楽は、口で歌うのではないのだよ。心で歌うのだよ。そうすると、聴いている人の心に響いていくのだよ。」と教えてくださいました。
先生は初めこの意味が分かりませんでした。でも、歌っているうちに分かってきました。今までは、口で歌っていたのでどなり声になったり、調子が外れたりしていました。ところが、心で歌うことが分かってくると、友達の歌声が聴けるようになりました。ピアノの伴奏もよく聴けるようになりました。指揮者の表情が見えるようになりました。歌っていて、気持ちがすっとするようになりました。そして、音楽がとても好きになりました。
 この夏に、一人の人の歌をききました。その人は、時田直也さんという方です。時田さんは、生まれてからずっと見るという経験がありません。生まれた時から、目が見えなかったのです。ところがふとしたことがきっかけで音楽がとても好きになりました。ピアノを弾いたり、歌を歌ったりすることが大変好きになりました。
 その人がピアノを弾きながら歌っているのを聴いたのです。聴いていて、何度も何度も感動しました。涙もでました。なぜならば、心の目で見た気持ちをいっぱいに表現しているからです。目ではみることはできません。しかし、その歌詞や曲から心で見ることはできるのです。そして、私たちにその歌の心を伝えてくれたのです。
 それでは、少しだけ、時田さんの歌を聴いてください。その歌はみなさんもよく知っている「野に咲く花のように」という曲です。
 曲を聴く
 あと少しの音楽会の練習です。毎日の練習が「みんなの心をひびかせる」練習をつづけましょう。そして、聴く多くの人の心にも響かせてください。
1994年11月7日