発展するハーバーランド その中で生きる子供たちに幸あれ

 九月一日は、ハーバーランドの街開きと新聞は報ずる。
 夏の間、何度か総合教育センターに出かけた。その度に、ハーバーランドが変わりつつある姿に驚嘆する。二年間通い慣れた道だが、新鮮な思いで歩く。
 初日は、十万人と新聞は報ずる。人、人、人の写真、そしてテレビニュース。
 街開きに出かけて行った妻や娘は
「人がいっぱいで、途中で引き返してきたのよ。」
と言う。
 街開きの最初の日曜日の人出は十二万人。
 九月七日、街開きをしてから初めて総合教育センターに出かけて行った。
 デュオこうべの地下街に目を見張る。太陽光線をいっぱい取り入れた広場、いつの間にこのようなものが出来ていたのかな。
 十月一日はBブロックの街開きという。
 パ・リーグ西武の優勝決定と重なり、九月に増して多くの人出が予想される。
 湊小学校周辺は、日に日に賑わう。活気がみなぎる。
 九月四日の神戸新聞
「できた!せせらぎ 湊小先生ら庭園づくり」
と報ずる。一学期より観察池づくり、そして造園づくりと続いていた。暑い夏休み、先生をはじめ管理員さんたちが真っ黒になって穴を掘り、小川づくり、池や滝づくりに全力を注がれている姿を何度か見た。
 先生たちの湊の子らに対する熱い思いを感じる。子供たちの歓声が聞こえる。
 八月の初め、同窓会に出席のために湊小学校を訪れる。この三月に卒業した子供たちが多数集う。活気に満ちた子供たち。一学期を終え、久し振りに出会う友達と楽しそうに語り合う姿にほっとした思いをいだく。
 いつまでも、湊小学校で学んだ喜びをいだき続けている卒業生。彼等を育てた多くの湊小の教師たちの温かい思いが胸にせまる。
 神戸電鉄の中で、湊小学校の子供のお母さんに出会う。なつかしく語りかけてくださる。そして、学校の様子、先生の様子、子供の様子を話してくださる。生き生きと過ごしている子供たちに、家族の人たちの温かい愛情を感じる。
 いろいろ話し続けているうちに、昨年の運動会の練習がたけなわの頃、おいしいアイスキャンデーを「先生方に」と届けてくださった方だということが分かる。改めてお礼を言う。保護者の先生方に対する信頼の深さを感じる。
 先日、神戸電鉄唐櫃台駅で、神戸北高校の二人の男の子に
「先生、湊小学校の教頭先生だったでしょ。」
と話しかけられる。そして、藤野先生のことが話題に出る。湊小学校の一回生の子である。この二年間しか湊小学校にいなかった私は彼等を知るはずがないが、なつかしげに小学校のことを語りかけてくれた。
「藤野先生、アメリカにとばされたのかな。」
「いや、違うで、選ばれたんやで。」
なつかしい先生方のことが、話題にのぼる。
 神戸北高校は、唐櫃小学校のすぐ側にある。彼等は、登校途中に朝のあいさつをしてくれる。湊小学校で学んだ喜びを全身で表してくれている。湊小学校の教育の素晴らしさを感じる。
 先日、ハーバーランドで六年生の子供たちに出会う。
「あっ、教頭先生や。」
となつかしい言葉がひびく。一人一人が手を振る。手を差し出す。にこやかに、
「教頭先生。」
と声をかけてくれる。遠くから、笑みを私に投げかけてくれる。
 あの子も、この子も(いろいろな思い出がある子たちばかりいる。元気そうである。しばらく見ぬ間に大きくなっている。心も体も思いも。
 七月に、彼等のT・Tによる学習を参観することができた。すべての子たちが、生き生きと自ら学習に取り組んでいる姿に、湊小学校の教育の素晴らしさを感じた。十一月の研究会の成功が目の前に浮かぶ。
 校庭のくすのきが移植されたのは二年前の九月十五日、十六日だった。雨の中移植が行われた。その二日後十八日、十九日に台風が近畿地方を襲う。雨風がひどく、移植したくすのきが気にかかる。十九日の夜はとくに風雨がひどく、学校に避難された方があったほどだった。
 夜中に何度かくすのきが倒れていないか見に行く。二十日の早朝、倒れもせず、秋空の下すくっと立っている姿に感動する。
 開校二十周年のくすのきの姿を目に描く。いく度かの風雨に耐え大きく枝を張り、葉が茂り、小鳥たちがさえずる。その木陰に、子供たちが集い、歌声がひびく。小鳥たちのさえずりと重なり、美しいハーモニーとなってハーバーランドひびきわたる
 このくすのきは湊小学校で学ぶ多くの子供たちを見続けていくだろう。この子たちの幸せを祈りながら。
 湊小学校から北へ十四キロメートル、六甲山麓にある唐櫃小学校は来年創立百二十周年を迎える。(湊小学校のA先生、PTA役員のBさん、それに保護者のCさんもこの学校卒業生、卒業アルバムにあどけないA、B、Cさんの姿を見たが)六甲の木々の緑に囲まれて、子供たちは運動会の練習に励む。小鳥たちのさえずりを聞きながら、学習に励む。
 今、校庭には百日紅(さるすべり)が、次から次へと紅い花を咲き続けている。
    百日紅の 花紅くして 秋暑し       船 山
    散れば咲き 散れば咲きくる 百日紅    千代女
 朝夕はめっきり涼しくなる。虫たちの鳴き声が幼い頃を思い出させる。
「校長先生、ぼく校長先生大好き。」
二年生のT君が今朝も私の側に寄って来てくれた。
 この子たちの幸せのために、今日も励まねば。
                 (けやき 平成四年十月号)