夏に育つ   −暑い夏を終えて思う−

 梅雨が明けたかと思うと、夏空が広がり、三十五度を越す暑さが続いた。しかし、七月の終り頃から、しばらく涼しい日が続いた。立秋が過ぎた頃より、残暑がきびしくなってきた。
 この暑さの中、少年野球のメンバーは中央区大会に向けて練習に励んだ。湊Aチーム(6年生)は優勝を逃したが、準優勝に栄誉に輝き、全市大会に向けて、より激しい練習を続けた。
 八月十一日から始まった全市大会では、各区から勝ち抜いた強豪チームを相手に戦う。厳しい試合である。一回戦、二回戦と快勝、決勝戦にすすむ。十八日、真夏の太陽の下、竜が台小学校のチームと戦う。初回に三点を入れられ、三回には四点を入れられ七対〇の劣勢の中、四回に三点を返す。後一息だったが、優勝を逸する。
「このチームは、ずば抜けた子はいなかったが、暑い夏にもよく練習を励んだ。チームワ ークもよかった。」
と、部長さんが話してくれた。泣きじゃくる選手に対して、
「みんなは、よく頑張ったのだから、えらかった、えらかった。」
と、励ます監督の顔も彼等の健闘をたたえていた。
 湊Bチーム(五年生)来年度に向けて、練習に励む。まだまだ心もとない。今年の六年生も五年生の夏は、湊Bチームのように心もとなかった。夏休みの練習の積み重ねが、大きな力となっていった。その成果が今年の結果となった。
 七月一日から六日にかけて、五年生は五泊六日の自然学校に行った。ほとんどの子が、親から六日間も離れて生活することは初めてであった。しかし、そこでのいろいろな体験していった。嫌いな副食物も無理に食べなければならなかった。自分の身の回りも自分で整理しなければならなかった。今まで親にしてもらっていたことをすべて自分でしなければならなかった。四人の子供だけで、直線距離で一.五キロメートル離れた小島までカヌーを漕いで行き、帰ってこなければならなかった。夏のこの様な経験を通じて子供は大きく育っていく。 
 三年前の私の教え子のA子が、二泊三日のキャンプが終った後三日間の日記を書いてくれた。
「三日目の悲しみはオリエンテーリング
 あの気の強い班長のKさんを泣かしてしまった。
 雨の中、平荘湖の周りを回った。とても難しい問題ばかりで解けない。私はむしゃくしゃした。そして、Kさんに文句ばかり言った。何もKさんのせいでもないのに。それ ばかりでない。男の子はまじめに考えてくれないで、
『早く行こう。問題なんかもうどうでもいいやんか。』
と行って声をかけても知らんぷり。もうみんな大きらいだ。
 私の班は一番点数が悪く、最下位だった。班長のKさんは涙をこぼしてばかりいた。Kさんはプライドが高いからしかたがないけど。
『Kさん、私が文句ばかり言って、どなってばかりいたから悪かったです。みんなをちゃんとまとめていかなければいけないのに。私が悪いんです。ごめんなさい。もう泣かないでね。』
とあやまりたかった。私は気が強いから、大好きな、とてもまじめなKさんを悲しませ た私だった。
 私は、二泊三日のキャンプで、私をいっぱい見つけた。それは、すべて悪い面ばかりの私だった。この私、もっといいこともいっぱいある私だと思うのに。」
 三日間のA子の日記は、わがままで、自分勝手で、気の強い自分ばかりを書いていた。一学期の自分の姿そのものであった。しかし、自分の姿を夏のキャンプで見つめたA子は、二学期、三学期で大きく変わっていった。
 卒業を前にして、A子は次のような日記を書いた。
「今日先生から
『Aさんのお母さんは、とてもいいお母さんだね。私は、今、子供を信じています。あの子のやる通りにやらせています。私は、あの子の進む道を信じています。そんなこと を涙をこぼしながら言っていたよ。』
ということを聞いた。
 私のお母さんは自分の子供の前ではぼろかすに言うけれど、かげで応援してくれているのだなと思いました。
 大根足の、センス悪いお母さん、そんなお母さんでも、私は世界で一番すてきな一番大事なお母さん、そんなお母さんが大好きだ。」
 一学期の頃は、お母さんのことをぼろくそに言っていたA子だった。でも、夏のキャンプを終えてから、A子自身が大きく自分を変えていった。夏の体験、それを通して自分を見つめ直し、大きく育っていった。
 夏は暑いといって、ややもすると怠けやすくなる。そして、無駄に夏を過ごしやすい。しかし、キャンプに、いろいろな体験活動に、スポーツに、水泳に自分を鍛えることを試みるシーズンでもある。この夏があるからこそ大きな実を結ぶ時がある。 
 夏の朝早く、北区の田園地帯に出掛けて行った。稲の穂が黄色く色づき、垂れていた。こんな景色を見るのは久し振りだった。収穫の秋はもうすぐ側にきている。
 飼育の世話をしに、六年生の子が三人やってきた。
「もう宿題やってしまったん。」
「まだ、ぜんぜんしとうへんわ。」
「まだ、十日あるから大丈夫やんか。」
「先生、もう十日、えらいこっちゃな、地蔵盆もあるしなあ。」
 運動場で、とんぼが二.三十匹群れをなして飛んでいた。夏休みもあと少し。もうすぐ、真っ黒に日焼けした子供たちで運動場が満ちる。          (けやき 平成三年 九月号)