子供のよさを見つめる随想15

鎌野健一
 
 6月の終わりからプール水泳の指導が始まった。
 昨年は、天候不順のため、気温も水温も低く、ほとんど水泳の練習ができなかったが、今年は、最初から25度を越す水温があり、気温も高く、気持ちのよい水泳練習が行われている。
 子供たちも、毎日のプールでの水泳がとても楽しみのようである。昨年までは、水に入ることさえ嫌がっていた、4年生の男の子であったが、今年は喜んで水に入り、泳ぎを楽しんでいる。2年生の時の担任も、3年生の時の担任も、彼の成長ぶりを心よりの拍手を送っている。夏は夏らしくなるということは、当たり前であるが、素晴らしいことである。
 
 学期末の個別懇談が終わり、先生方は1学期の「あゆみ」の整理に余念がない。暑さの中、いろいろな資料を整理し、子供たち一人一人のよさをまとめることに力を注がれている。
 もう5年も前になるが、新任3年目のある男の先生が、私に「教頭先生は、子供のよいところを見つけて、どしどしほめてやりなさいと言われますが、M君は全くよいところが見つけられないのです。こんな子はどうするのですか。」と尋ねられた。
 そのM君を私は1年生2年生の時に担任したが、彼の思いはとてもよく分かったが、私は「先生は、子供を先生の目で見ているのです。それでは、子供のよさは見つけることはできません。子供の目で、子供を見なさい。それと同時に、例え一瞬でも、子供のよさを見ることができれば、その一瞬を認め、ほめてあげなさい。そうすることによって、子供のよさはもっと大きくなります。」
と答えた。彼は、素直に私の言葉を受入れ、M君を見つめ直した。数日後、彼は大きな喜びを私に伝えてくれた。
「教頭先生、M君をほめてやりました。掃除の時、いっぱいになったゴミ箱を運んでいた女の子に『おれ、持ったるわ。』と言って交替してやったのです。でも、少しだけ運んだだけで、『おい、K,これを捨ててこい。』と言ってK君に持たせたのですが。その時、私は側にかけつけ『M君、やさしいな。』とほめてやったのです。すると、にこっと笑みを浮かべ、走ってK君の方に行き、二人でゴミ箱を持ち、焼却炉まで運んで行きました。M君のこんな姿を見たのは初めてです。彼にも、確かによさはあるのですね。」
 どんな子供でも、必ずよさはある。ひとりの人間として生命を与えられたのであるから、どんな子でもその子にしかないよさがある。そのよさを教師も親もしっかりと見てやらなければならない。認めてやらなければならない。
神戸市立唐櫃小学校学校だより「校長室の窓からやまびこ」1994年7月18日発行7月号より 
 
 編集後記
 唐櫃に来て、3年目の夏を迎えます。1年目も2年目も涼しい夏でした、特に昨年は涼し過ぎていましたが。今年は、例年にない暑さです。農作物も豊かに実ることでしょう。
 8月には、唐櫃の各地で盆踊りが催されます。夏の夜の楽しみを思い出すだけで、胸のどよめきを感じます。
 この夏も、素晴らしい唐櫃を感じたいです。鎌野