ホタルの飛び交う里に随想14

鎌野健一
 6月19日、日曜参観の夜、恒例の「唐櫃のホタルを観る会」があった。当日は気温が低く、風も強かったため、ホタルが飛び交う姿は多く観ることはできなかった、しかし、300人近い参加者が集いホタルの生態を学び、自然に恵まれている唐櫃のよさを満喫できた。
 実は、昨年から、奥山川沿いに宅地が造成され、今年のホタルは一体どうなるだろうと心配していたが、6月の上旬よりぼつぼつ現れ、私たちを安心させてくれた。
 昨年末より、新しく唐櫃に住まいを移された多くの方々は、家のすぐ側にホタルが飛び交う様子を見て、感動に耽っておられた。
「写真では見たことはあるのですが、すぐ目の前でホタルが飛んで いるのを見るのは初めてです。」
と、目を輝かせて語られるお母さんに、私自身深い喜びを感じた。この感動を、この喜びを失わせてはならないものである。
 
 ところが、11日の朝日新聞の夕刊に「ホタル受難 捕り子駆け回る 一匹最高800円」と一面に報道された。私は悲しい思いで読んだ。なんと、大阪市内のあるレストランでは、毎夕数千匹のホタルが乱舞するという。40日の期間に10万匹のホタルが放されるという。
 このような捕り子に、唐櫃のホタルを捕らせてはならない。いつまでもいつまでもこの唐櫃にホタルが飛び交わらせなければならない。子供たちの未来ためにも唐櫃のホタルを絶やせてならない。
 先日、「1万匹のホタルが乱舞するほたる祭り 西脇中野公園」とのニュースを聞いた。私とPTA会長、それに教頭の3人が、是非この様子を見たいものだと思い、11日の土曜日に出かけて行った。広い駐車場もあり、多くの方が見にこられていた。「1万匹もホタルが乱舞する様子、是非唐櫃の里にも」という思いを持って出かけたのであるが、期待を大きくはずれ、あちこちにちらちらという状況。「これならば、唐櫃のホタルの方が素晴らしい」という思いで帰って来た。
 ちょうどその時、地域の方とお話をする機会があったので、いろいろと話を聞いた。その話によると、7、8年前から地域の方がホタルを育成し、その卵を毎年、何万匹も放流されたそうである。その成果があがり、5年前からホタル祭りを地域の観光協会とともに始めたそうである。初めは、宣伝の意味もあり「お土産にホタルをどうぞ」という形で始められた。ところが、ホタルが極端に減ってきたので、捕らないというようにしたが、捕る人が後を絶たないそうである。
 この二の舞をこの唐櫃ではしてはならない。もっともっとホタル増やし、何万匹もホタルが飛び交う里にしていかなければならない。ところが、「捕り子」がこの唐櫃にも姿を見せはじめている。悲しい思いである。
 この唐櫃にホタルを増やすためには、何よりも大切なことは、川を汚さないことである。ホタルの幼虫のえさであるカワニナは水がきれいな川にしかすまない。唐櫃小学校とPTAそれに唐櫃の環境をよくする会が共同して、下の川橋の側に川を汚さないでほしいという看板を立てた。PTAもホタル育成活動委員の方を中心にして川の清掃活動をされるという。唐櫃の住民が一致協力して唐櫃の川を汚さない運動を続けていきたいものである。
 この唐櫃地区にも下水道工事が進み、完成をした。水も澄み、魚も泳ぎ、カワニナも増えてきつつある。その成果があがり、奥山川の下流有野川にもホタルが飛び始めている。うれしいことである。後、上流にある逢山渓を汚さない運動も進めなければならない。
 川沿いの宅地造成工事が始まっているが、神戸市土木局の指導で川に直接に泥水を流さないように指導が進められている。また、近く始まる阪神高速道路神戸線の工事もホタルを守ることを重点にして工事を始めるとの約束もいただいている。うれしいことである。 本校では、5年生を中心にして、ホタルを飼育し、卵を生ませ、幼虫を育て、11月には放流していく一連のゲンジボタル育成学習を行っている。
 このように、学校、家庭、そして地域が一体となって、ホタルが飛び交う里唐櫃にしていきたいものである。
 このことは、今日の大人が、未来の子供たちに残すことができる大きな仕事である。唐櫃の自然を守るだけでなく、この宇宙船地球号がいつまでも緑豊かなものとしていくために私たちのなすべきことである。
 
 2年生の子が、「生き物を飼おう」の学習を進める中で、「ホタルを飼いたい」という希望が出た。その希望に対して、「ホタルは飼ったらあかん。だんだん減っていきよるんやで。そんなことをしたらホタルなくなってしまう」との意見がでた。
 子供たちの中にも、ホタルを守ろうという気持ちが育ってきた。
 
編集後記
 6月の初めから、異文化ふれあいチューターとして、神戸大学の留学生シュショバン・チャカラボルディさんが、毎週木曜日に来てくださっています。そして、1年生から6年生まで、どのクラスにも入っていただき、バングラディシュのこと、そこの人々の暮らし、遊び、そして歴史、言葉など、日本と異なる国の文化を直接に教えていただきます。子供たちは大喜びです。
 保護者の皆様にもこのような機会が持てたらいいだろうなと思っています。実施できるようになれば、ご案内いたしますので、多数ご参加ください。(このような学習をしているのは、神戸市の小学校で11校だけです。唐櫃小学校はいろいろなことで恵まれています。)
 コンピュータを利用し始めて2か月。子供たちはコンピュータでの学習をとても期待しています。これから、ますます利用の機会が多くなると思います。全員の先生方が、とても意欲的に取り組んでくださっています。私も時々子供たちのコンピュータを活用している様子を見にいきますが、子供たちの目の輝きは素晴らしいものです。それだけではありません。操作がとてもスムーズなってきています。子供の可能性の素晴らしさに驚いています。
 13日から2週間、神戸女子短期大学生が教育実習に来ています。若さで子供たちと体当たりしている様子素晴らしいです。若さが私にも欲しいです。
 第14号も6月中に発行できて何よりです。また、感想などを届けてください。楽しみにして待っています。     (鎌野)
神戸市立唐櫃小学校学校だより「校長室の窓からやまびこ」1994年6月27日発行6月号より