「ほめる」とは全身でよろこぶこと

随想6
鎌 野 健 一
 
雲一つない秋空の下、開校120周年記念運動会が開かれた。
夏から続いた天候不順のため、十分な練習はできなかったが、子供たちは「もえろ、かがやけ」をスロ−ガンに練習に励み、開校120周年にふさわしい運動会が開かれたことは、とてもすばらしいことである。
子供たちは、このような行事を通して、一段と大きく成長し大きく伸びるものである。たどたどしかった1年生もぐんとたくましくなり、集団行動にも、日々の生活にも自ら活動し始めてきている。子供の伸びていく力のすばらしさをしみじみ感じる。
 
運動会が終わった後、4年生担任のT先生はこんなことを話してくれた。
「練習の時は、子供たちの悪いところばかり目についていたが、今日は子供たちのすばらしいことばかり目についた。ぎゅっと抱き しめたいくらいみんな頑張ってくれて、とてもうれしかった。」と。
運動会の棒を使っての表現運動を指導し、苦しみの多い日々だったようだが、子供たちは先生の意気を感じ取り、全員気持ちを一つにして練習に取り組み、大きな成果を見ることができたようだ。このクラスの学級だよりに次のように書かれている。
「よく頑張った運動会」
棒を使っての表現運動『はるかな夢を追いかけて』では、指揮台の上から子供たちの姿を見ていました。見ているうちに、子供たちの練習していた様子が目に浮かんできました。少ない練習時間でどの子も一生懸命に取り組みました。 中略
そして、本番の様子!子供たちは私の予想以上にがんばりました。どの子も本当に誇らし気に見えました。私にとって本当にうれしい運動会でした。
 
また、6年生の担任N先生はその学級だよりにも、運動会に全力を尽くした子供たちにこのように書かれている。
「さいごの運動会!!君たちの顔、輝いていた」
本番直前まで、倒れてはやり直し、くずれてはやり直しをしてきました。当日の姿を見て、ピラミット、タワ−と胸がいっぱいになり目がウルウルしてこまってしまいました。
やりましたね!子供たちはやっぱり素晴らしい!最高です!
最後にクラスで恒例のバンザイもやめて感動を胸に余韻を残して別れました。感動をありがとう。
 
そのいずれも、子供たちのすばらしさを心からほめている。ただ口先ではなく、教師自身が全身でよろこびを表している。
 
私の小学校2年生の時の担任は藤井先生という若い女の先生であった。ほめられたことの少ない私であったが、この先生にほめられた時のことは、今も鮮やかに私の脳裏に刻まれている。
それは、算数の九九を覚える頃であった。遅くまで残されて九九を暗記させられた。しかし、なかなかスム−ズに暗記できなくて、何度も何度も失敗し続けた。そして、やっとうまく暗記できた時、藤井先生は、私をぐっと抱きしめ「えらかったね。ちゃんと言えてよかったね。先生もうれしいよ」と涙と鼻汁でぐちゃぐちゃなっていた顔に頬ずりしてくださった。
このあたたかみは、50余年経った今も頬に残っている。
 
「ほめる」とは全身でよろこぶこと。なんとすばらしい事実であろうか。
 
神戸市立唐櫃小学校 学校だより「校長室の窓から やまびこ」1993年10月20日発行10月号より

編集後記
開校120周年を機に同窓会が発足する案内を旧職員の先生方にお送りいたしました。その内の一人 前田 操先生から心暖まるお返事をいただきました。その中の一部をご紹介いたします。
「私は、昭和27年に御校にご厄介になりました。もはや戦後で ないと言われた時代で、もう40年の歳月が経っております。校舎はもちろん木造旧校舎でした。その材質のよさ、どっしりと支える一回りも二回りも太い柱、建築当時はきっときっと近在にまれな校舎でありましたことは、想像に難くありませんでした。
夏ともなりますと、子供たちは水をこがれます。これは昔も今 変わりませぬことです。当時はプ−ルなどはありません。どこの学校にもないのが普通でした。PTA会長様(新井慎一氏)のご尽力で、神鉄六甲山口駅の下の川を土嚢でせき止めて、水遊びの場所を特設していただきました。子供たちの喜びの水しぶきを、私は今もはっきり思い起こすことができます。親御さんたちの絶大な愛情、地域の方々の惜しむことのない愛情、真情に胸をうたれたことでした。
御地には今も変わりませぬ心が脈々と流れ受け継がれておりますことを信じて疑いません。
創立120周年おめでとうございます。    前田  操」
 
1993年(平成5年)11月14日は記念すべき開校120周年記念日です。来月号はそれにふさわしい紙面にしたいと願っています。唐櫃小学校で学ばれたお父さんやお母さん、またはおじいさんやおばあさんの小学校時代の様子や思い出を是非お知らせください。楽しみにしています。文の長さは別に制限はありません。できますれば10月中に校長室までお届けください。お子様を通してでも結構です。お待ちしています。鎌野