3つの校門

随想5
鎌野健一
唐櫃小学校には、校門が3か所ある。そのいずれも、その門それぞれに顔を見せてくれている。
唐櫃台駅の方から入ってくる西側の門、そこには、樹齢60年以上もあるような大きな桜の木がある。新学年の喜びいっぱいで迎える子供たちに、幸せの花吹雪を降らせてくれる。夏は新緑の葉を繁らせ、小鳥や虫たちのすばらしい住み家になる。秋は赤や黄に色づいた葉をじゅうたんのように敷きつめてくれる。母親のような優しい門である。
 
南側にある南門、この学校が唐櫃台に移ってきた当時の記録を見ると、正門になっている。確かに正門の風格がある。門を入った左にメタセコイヤ、右にヒマラヤ杉を中心にこんもりと繁り子供たちを迎えてくれている。ここにある木々は、地域の多くの人々の力により、旧唐櫃小学校の校舎前の庭から運び込まれ、植えられたものである。唐櫃の子供たちを長年にわたってやさしく見守ってくれている。おじいさんやおばあさんのような温かい門である。
 
3つ目は一番登下校の子供たちが多い東門である。布土の森の木陰にある門、鯉が泳ぐ池があったり、地域から贈られた孔雀のいる立派な鳥小屋があったり、季節ごとに花を咲かせる花壇があったりして、いつも賑やかな門である。りっぱな校門があり、正門と間違ってもおかしくない門である。
その門の側に文字が刻み込まれた石がある。これには「恕」と刻まれている。これは、昭和43年11月14日唐櫃小学校95周年の記念の日に除幕された記念碑である。この記念碑の大きな石は、唐櫃の土地から出た花崗岩であり、文字は、当時の神戸市教育委員長木戸只一先生に書いていただいたものである。
記念碑に刻まれた文字「恕」は音読みでは「じょ」、訓読みでは「ゆるす」と読む。
記念碑の除幕式に、当時の校長吉原和夫先生は、バレ−ボ−ルの話を通して、「恕の心とは、人の失敗もゆるす広い心であり、自分のことを考えないで、相手の気持ちになる思いやりの心である。このような心づかいは私たちの毎日の生活の中で大変必要なことである。みんながこの心を持ってよい学校にしあげていこう」と話された記録がある。
このような記念碑がある東門は、お父さんのような、人間としての厳しい生き方を教えてくれる門であろうか。
 
子供たちは、校門をくぐり登校してくる。保護者や地域の方々の子供たちに対する温かい愛をいっぱい受けて。
この唐櫃小学校、この11月に開校120周年を迎える。その歴史をひもとく中でその思いを強く感じる。
今日も子供たちは120年を記念する運動会の練習に励む。

編集後記
この夏休みの間に、市教委の温かい配慮で校舎内の内装、多目的教室への改修、運動場の改修が完成しました。うれしいことです。 保護者の皆さんの中で唐櫃小学校を卒業された方の小学校時代の思い出についてのご投稿を心よりお待ちしています。
鎌野
神戸市立唐櫃小学校 校長室だより「校長室の窓から やまびこ」1993年9月17日発行9月号より